ところで私のトレーナーはトレーナーなのに甘党である。 トレーナーは甘いもんなんか食べず、ブロッコリーとサラダチキンばっか食べているのかと思っていた。あんこ好きなのだ。トレーニングの前とか後とかに豆大福やら道明寺を食べたりする。 前と後だけではなく、途中で食べたこともある。私をトレッドミルに乗せておいてから、急に「草もちが食いたくなった」と言い出した。 「今?」 「買ってくる」 「はあーーっ?」 そしてとっとと出かけようとするではないか。やばい、本気だ。私をトレッドに置きっぱなしにして? ハムスター状態の私は慌てふためき、トレッドの上でバタバタ足をもつれさせながら叫んだ。 「今じゃなくてもいいでしょーよ! 無理無理無理!」 「大丈夫。すぐ戻る」 大丈夫じゃないわよっ! 私はここのトレッドの止め方を知らないんだからっ。たとえ知っていても私はトレーニングを自分で止めたりしない。トレーナーの「はい、水飲んで」を待つ人だ。トレーナーと喧嘩するときだって律儀に腕立ては続けるぞ。 しかしあきらめるほかなかった。 「だったら走って! 丁寧に包んだりしなくていいんだからね! 急いで! 早くっ!」 まったく生きた心地がしなかった。もし交通事故に遭って帰ってこなかったらどうしようと思った。ここで私は永遠に走っていることになるではないか。 不安感が極限までつのり、「無理無理無理。早く戻れ、バカ!」と騒いでいたら戻ってきた。 30分は走ったと思っていたら、7分しか経っていなかった。 「羽生さんも食べる?」 「‥‥‥」 「いらないの?」 「‥‥‥イッコ食べる」 私はこの人に、「食え」とは言われても、「食うな」と言われたことがない。 いつだったかトレーニングの後、私が草もちを買ったこともある。つーか、買いに行かされた。近所に和菓子の老舗『玉屋』さんがあるのだ。あんこ好きにはたまらん環境だ。私もあんこは嫌いではない。 私の次の時間帯に入っているノブちゃんのぶんもいっしょに買ってきた。女の子が好きな道明寺である。 「ノブちゃんにあげてね」 「俺が食べる」 冗談だと思っていたら本当に独占したとあとで知った。悪魔っ! ここを読んだノブちゃんが激怒して、ぱこーんと蹴ってくれることを祈る。