筋肉痛がハンパないぞ。脇(腕の付け根の部分)が特に激しく、腕が90度から上に上がらない。
昨日オーナーと一緒にトレーニングを受けたのがいかんかった。前回書いたように競争相手がいると俄然はりきってしまうのだ。相手がトレーナーだろうが、身長180?を超える壮年期の男子(しかもハーフやフルのマラソンレースが趣味)だろうが負けたくない。前回プッシュアップ200回の自慢話をしたばかりだが、中2日空けているとはいえ、またまたプッシュアップ競争である。
「前に攻めろ!」
攻める? 初めて聞く新鮮なダメ出しだったので、ついグイグイ攻めたらこうなった。
トレーニングのあと、三人でご飯を食べに行った。前はトレーナー達やオーナーとの距離をどのくらいに保つことが客たる私のお作法なのかわからず、食事ひとつにしても誘っていいものやら、はたまた誘われてノコノコついて行っていいものやら気を遣ったが、最近はいろいろ考えても結局わからないし疲れるだけなのであまり考えないようにしている。
考えなくなったらオーナーとはいえ、もはやボーイフレンド扱いである。この日も、
「インフルエンザ上がりにしてはなかなか良かったんじゃない?」
私はほめたつもりだったのだが、
「なんで上からなんだよ」
二人に叱られた。
調子に乗っていたぞ、私。
「距離」は私にとって永遠のテーマだな。
ほんとによくわからないのだ。
つい近づきすぎて、「なんか勘違いしているんじゃない?」とか「調子に乗っている」と思われるのが、私としては一番恥ずかしいパターンである。これだけは避けたい。
たとえばほら、名刺管理アプリのCM。名刺交換した相手に「友達リクエストしていいか」と訊かれて困っているという内容。先輩社員が「プライベートで仲よくなりたいわけじゃないんだよ」なんて愚痴っている。気持ちは理解できるが、私は悪口言われている相手が気の毒で仕方ない。こんなこと言われていると知ったら、私なんぞ「わーーーーっ!」と叫んで走り回りたくなるね。恥ずかしくて消えて無くなりたくなるだろう。
役者達との距離も気をつけている。ほど良い距離にしておかないとね。
しかし先だっての公演稽古中、心の距離はもちろん物理的な距離も取らなくてはいけないことを知ってびっくりした。
雅紀が「俺やじゅんじゅんはべたべた触られるのが嫌なタイプ」と言うのである。私とEricoは思わず目を見合わせたね。私達はすぐ相手を抱きしめちゃうタイプだからである。そりゃ悪かったね、べたべた触って。
役者達は私に抱きしめられたいのだとばかり思っていたから、目からウロコのビックリだった。
開演時間が近づいた頃、私は挨拶に来た役者たちを抱きしめて「行っておいで」と言う。これはもう旗上げたときからのオマジナイである。今頃「いやなタイプ」と告白されても困る。
そんなわけで今回はとっても困ってしまって、雅紀は握手ですませたりしてみた。純一はなるべくひっつかないように注意しながらゆるめにハグした。あーめんどくさい。玉組の伝統がここで途切れた。
余談だが、女の子たちはしっかりこの伝統が生きている。私がお手洗いに立ち上がっただけで、オマジナイの終わっていない麻理枝と佳美は「羽生さん」と怯えた顔をする。
「まだ(客席に)行かないよ。トイレ」
「あー、びっくりした」
可愛いなあ。女の子はほんとうに可愛い。
そういえば男の子でもnobは、こういう玉組の伝統を大事にしてくれたものだ。心のこもったハグだった。
主題がビミョーにずれてきたが、要は私は人とつきあうのが上手ではないという、これまで何百回もしてきた話である。
どーんと近づいてぶつかって、それでダメでもカラカラ笑っていられる、そんな風になれるといいけど、たぶん一生無理だ。答えの出ない距離を考えてじめじめしている一生に違いない。
知らない人に会うのも無理だ。これはもうすっかり居直って「会わない」と決めた。先が長くないことに免じて私の居直りを許してほしい。